アクティブボード・2013年 6月
・・・・・2013年 6月 4日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第60回日本実験動物学会
2013年 5月15日〜17日(つくば)
タイトル;マウス卵子凍結保存技術を利用した遺伝子改変マウス研究の新戦略.
発表者;石束 祐太 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野)
Abstract;
【目的】近年、遺伝子改変マウスは、哺乳動物における遺伝子の機能解析および疾患モデルとして、生命科学研究に汎用されている。世界中の研究所で容易に遺伝子改変マウスが研究に使用できるようになり、遺伝子の生体における役割や疾患に関連する遺伝子が次々と解明されている。一方で、遺伝子改変マウスを用いた研究の競争が激化しており、迅速かつ効率的に遺伝子改変マウスを作製し使用することが研究者の課題となっている。これまでに我々は、生殖工学技術の研究を進めることにより、遺伝子改変マウス研究の効率化に有用な技術を開発してきた。現在、最も注目されている生殖工学技術として、卵子の凍結保存が挙げられる。遺伝子改変マウスの卵子を凍結保存しておけば、必要な時に融解して体外受精および胚移植を行うことにより、実験に必要な数の同週齢の産子を容易に作製することができる。本研究では、マウス凍結卵子における低受精能の克服およびマウス凍結卵子の応用に関する技術開発を行った。
【方法】精子および卵子は、C57BL/6Jマウスから採取した。卵子の凍結保存は、凍結保存液として1M DMSOとDAP213を用いた簡易ガラス化法により行った。体外受精では、凍結/融解卵子と新鮮、凍結精子および冷蔵精子を用いた。各種精子は、0.75 mM メチル-β-シクロデキストリンを含有したTYH中で前培養を行なった。凍結/融解卵子を含んだ体外受精培地(HTFあるいは1.0 mM 還元型グルタチオン(GSH)含有HTF)に導入した。翌日、二細胞期胚への発生を観察し、GSHが受精率に及ぼす影響を評価した。また、二細胞期胚は、KSOM中で胚盤胞期胚まで体外培養し、発生能を評価した。
【結果および考察】凍結保存した卵子の多くは、融解後も生存していた(回収卵子: 95%(1770/1859)、生存卵子: 91%(1603/1770))。凍結/融解卵子の受精能は、GSHを処理することにより顕著に改善された。また、本体外受精法を使用することで、新鮮精子のみならず、凍結精子を用いた体外受精においても高い受精率が得られた(新鮮精子;HTF:85% vs. GSH含有HTF:95%, 凍結精子;HTF:41% vs. GSH含有HTF:80%)。さらに、96時間保存した精子の体外受精においては、72時間まで70%以上の高い受精率を示した。体外受精により得られた二細胞期胚は、体外培養により正常に胚盤胞期胚へ発生した。以上、本研究により、マウス卵子の凍結保存および体外受精法を確立することに成功し、遺伝子改変マウスを迅速かつ効率的に作製することが可能になった。本知見は、遺伝子改変マウス研究の新戦略として、マウスの卵子を凍結保存が利用できることを示唆している。