アクティブボード・2013年 3月
     ・・・・・2013年 3月 2日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第35回日本分子生物学会年会
 2012年12月11日〜14日(福岡)

タイトル;齧歯類および重歯類ケモカインのゲノム多様化機構.

発表者;柴田 佳菜子 氏
   (熊本大学 医学部 保健学科)
Abstract;
 ケモカインは,炎症時のみならず生体の恒常性維持のために,白血球などの様々な細胞種を遊走する低分子サイトカインである.ケモカインは現在のところ脊椎動物にのみ見出されており,また生体防御遺伝子の中でも進化速度が早いことが知られている.ケモカイン遺伝子は,生物種や個体により遺伝子数や種類が異なり,種特異的な遺伝子も多数存在する.ケモカイン遺伝子はクラスター構造(ヒトの場合,染色体4番と17番)を形成するグループとそうではないノンクラスター・ケモカインに分けることができるが,クラスター内のケモカインには特に上述の多様性が見られる.
 これは重複などの再編成が進化の過程で頻繁に起きた結果だと考えられ,そのためにケモカイン遺伝子ではオーソログ関係が曖昧なものや不明なものが多い.ほ乳類の中で霊長類に近い齧歯類マウスにおいても遺伝子数や種類がヒトとは異なっており,モデル生物として齧歯類を使用する際,そのオーソログ関係を明らかにしておくことが重要となる.また,その急速な多様化機構がどのようなものか興味が持たれる.そこで,本研究では齧歯類(ネズミ目)のマウス,ラット,リスやモルモットおよび齧歯類に近い重歯類(ウサギ目)ウサギのゲノム情報を分析し,ケモカイン遺伝子の対応関係やクラスター形成機構を解析した.
 ヒトやマウスのケモカイン配列を用いてEnsemblのゲノム配列を解析し,齧歯類およびウサギの全てのケモカイン遺伝子を同定した.また,PipMakerを用いてゲノムの構造を調べ、再編成機構を推測した.その結果,ヒト染色体4番に相当するクラスターでは,マウスCxcl1はヒトのCXCL3およびCXCL2に,マウスCxcl3はヒトCXCL1に相当し,またヒトと分岐した後,齧歯類やウサギではCxcl1(マウス)の重複によりCxcl2遺伝子が形成されたと考えられた.さらに齧歯類やウサギのケモカインがほ乳類からの分岐後どのようにして多様化していったかを示したい.