アクティブボード・2012年12月
・・・・・2012年12月 4日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第60回日本ウイルス学会学術集会
2012年11月13日〜15日(大阪)
タイトル;P-body因子MOV10はHIV-1複製とLINE-1のレトロトランスポジションを抑制する.
発表者;黒木 美沙緒 氏
(熊本大学 エイズ学研究センター 有海プロジェクト研究室)
Abstract;
【目的と意義】P-bodyはmRNAの分解や貯蔵、翻訳調節に関与する細胞内構造体である。近年、DDX6、APOBEC3F/3G、MOV10といったP-body因子がHIV-1を抑制することが報告された。しかしその作用機序は明らかになっておらず、本研究ではP-body因子がHIV-1複製にどのように関与しているかを調べた。またHIV-1の生活環と類似点がある細胞の主要なレトロトランスポゾン配列であるLINE-1のレトロトランスポジションとP-body因子の関与についても調べた。
【材料と方法】293T細胞にP-body因子とHIV-1を共発現させ、その培養上清を遠心してウイルス粒子へのP-body因子の取込みを調べた。同時に上清の感染性をMAGICアッセイによって調べた。P-body因子の細胞内局在や結合を免疫染色や免疫沈降によって明らかにした。同様に293T細胞にP-body因子と全長LINE-1発現ベクターを共発現させ、レトロトランスポジションが起こった細胞の割合を測定した。LINE-1発現ベクターはLINE-1 mRNAが逆転写され、宿主ゲノムにインテグレーションされた時のみGFPが発現される構造を有しているため、測定にはGFPのウエスタンブロットとフローサイトメーターによる解析を用いた。
【結果】DDX6とMOV10はAPOBEC3Gと同様にHIV-1のvirionに取込みが見られ、MOV10の強制発現はHIV-1の感染性を顕著に抑制したが、DDX6は抑制しなかった。APOBEC3GはP-body因子としてDDX6と共局在したが、DDX6ノックダウン細胞においてはP-body様のドット構造を形成しなかった。LINE-1のレトロトランスポジションはAPOBEC3F/3GおよびMOV10の強制発現によって顕著に抑制された。
【考察】RNAヘリケースであるDDX6とMOV10はどちらもウイルス粒子内に取込まれるが、HIV-1複製において異なる役割を持つと考えられる。DDX6ノックダウン細胞を用いた細胞内局在の観察により、DDX6はAPOBEC3GのP-bodyへの局在に必要であることが示唆された。APOBEC3F/3GとMOV10がLINE-1のレトロトランスポジションを抑制したことにより、P-body因子のレトロエレメントにおける共通な役割が考えられる。同様にP-body因子とHCVの関与についても調べ、RNAウイルスとレトロトランスポジションにおけるP-bodyの役割の違いについて明らかにする。