アクティブボード・2012年10月
     ・・・・・2012年10月 4日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第26回モロシヌス研究会
 2012年 6月15日〜16日(東京)

タイトル;MSM/Ms由来ES細胞を用いたc-Mafトランスジェニックマウスの作出と解析.

発表者;昇地 高雅 氏
   (熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野)
Abstract;
 MSM/Msマウスは、Mus musculus molossinusに由来する日本原産の野生マウスから樹立された近交系である。実験用マウスとして一般的なC57BL/6とはゲノムの塩基配列が1%近く異なっており、従来の研究用近交系マウスには見られない表現型が報告されている。中でも、ガンに対する抵抗性はきわだっており、MSM/Msマウスを用いて研究することにより、発ガンに関わる遺伝的背景とはどのようなものかが明らかになると期待される。しかし今まで、MSM/Msマウスを用いたがん研究は、化学物質や放射線等によるものがほとんどであった。我々のグループでは、MSM/Ms由来のES細胞の樹立に成功し、これにより、MSM/Msマウスの遺伝子操作が可能になった。そこで、今回、我々は、MSM/Msマウスに発がん遺伝子を導入することにより、MSM/Msマウスにおける発がんメカニズムが通常の実験用マウスとは異なるのかどうかを検討することとした。
 c-Maf遺伝子は、鳥の筋腱膜線維肉腫ウイルスであるAS42の遺伝子内に同定されたv-Mafファミリー遺伝子の1つで、T細胞におけるIL-4やIL-10の発現を活性化する転写因子である。また、眼の水晶体形成に必須であること、ノックアウトマウスでは出生直後に死亡することも確認されており、体形成にも重要な役割を果たしている。血液ガンの1つである多発性骨髄腫の30%でc-Mafが発現しているとの報告もあり、c-MafをヒトCD2プロモーター制御下に胸腺で過剰発現させたC57BL/6では、50週齢以降にリンパ節の腫大、脾臓への腫瘍の形成がおこる。(Naoki Morito, et al. Cancer Res 2006)
 C57BL/6マウスで観察されたc-Maf過剰発現によるリンパ腫の発生がMSM/Msマウスでも同様に起こるのかを調べるため、MSM/Ms由来ES細胞を用い、トランスジェニックマウスの作製を試みた。C57BL/6で用いられたものと同じコンストラクトに、ネオマイシン耐性遺伝子を接続、プラスミドベクターを残したまま直鎖状して導入した場合に、F1では発現が見られたが、その後発現が減少してしまった。そこで、ネオマイシン耐性遺伝子の位置を変更し、プラスミドベクターを切り離し、プラスミドベクターの挿入のないクローンを選択して、ラインを樹立したところ、c-Maf過剰発現のマウスを得ることに成功した。現在、詳細な発現解析と、経過観察を行っているところである。