アクティブボード・2012年 9月
     ・・・・・2012年 9月 3日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第34回日本分子生物学会年会
 2011年12月13日〜16日(横浜)

タイトル;スプライシング因子SF2の核スペックル局在を促進する化合物Toyocamycinの解析.

発表者;八木 浩亮 氏
   (熊本大学 大学院自然科学研究科 生命科学専攻 RNA分子生物学研究室)
Abstract;
 真核生物の細胞では、遺伝子発現における必須の反応である転写、スプライシング、核外輸送などの諸反応が互いに連携して行われている。核内構造体の一つである核スペックルは、それら遺伝子発現における諸反応の連携制御において非常に重要な機能を担っていると考えられているが、その機能や形成機構については未だに不明な点が多い。
 核スペックルの機能や形成機構の解明を目指し、当研究室ではこれまでに放線菌培養上清から核スペックル形成に影響を与える化合物のスクリーニングを行ってきた。核スペックル構成因子の一つであるスプライシング因子SF2を抗体染色し、その局在変化を指標に約3,500種の培養上清サンプルについてスクリーニングを行った。その結果、細胞内のSF2の核スペックル局在領域を肥大化させる化合物としてアデノシンアナログであるToyocamycinを同定した。Toyocamycin処理細胞の抽出液を用いてWestern blot解析を行ったところ、処理前後でSF2量に有意な変化が検出されなかったことから、ToyocamycinはSF2の細胞内分布を変化させることが示唆された。また、ToyocamycinはClk/Sty pre-mRNAの選択的スプライシングにおいて、第4エキソンのスキッピングを抑制し、エキソン含有型mRNAの生成を促進することが示された。さらに、アデノウイルスE1A遺伝子の選択的スプライシングにおいて近位の5’スプライス部位選択を阻害し、遠位の5’スプライス部位選択の促進を引き起こした。ToyocamycinはSRタンパク質のリン酸化を制御しているClk/Styキナーゼの活性を阻害したことから、キナーゼ阻害によりSF2の核スペックル集積の変化や選択的スプライシングへの影響が引き起こされたと考えられた。今回得られた結果から、核スペックルには核内のスプライシング因子などの分布を調節することで、pre-mRNA選択的スプライシングを制御する役割があることが予想された。Toyocamycinの作用機構解析を介して、核スペックルの形成機構や機能、さらには、選択的スプライシング制御機構の解明を目指したい。