アクティブボード・2012年 6月
     ・・・・・2012年 6月 5日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・日本実験動物科学・技術 九州 2012
 2012年 5月24日〜26日(別府)

タイトル;マウス体外受精において透明帯の化学的酸化は低受精率の要因となる.

発表者;中尾 聡宏 氏
   (熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野)
Abstract;
【目的】還元型グルタチオンは、マウス卵子の透明帯を還元および透明帯の形態的変化を生じさせることにより、体外受精における受精率を向上させる。透明帯は、透明帯構成タンパク質からなり、卵子を覆う透明な膜である。受精において透明帯は、精子侵入の大きな障壁となっている。還元型グルタチオンは、透明帯構成タンパク質を還元することにより、透明帯のバリアー機能を低下させ、受精促進作用を示すと予測される。しかしながら、透明帯の酸化あるは還元状態の変化が、卵子の受精能に及ぼす影響は、明らかになっていない。そこで本研究では、チオール選択的酸化剤であるジチオニトロ安息香酸 (5,5-dithiobis(2-nitrobenzonic acid): DTNB)を利用し、化学的に透明帯を酸化させることにより、透明帯の酸化が卵子の受精能に及ぼす影響を検討した。
【方法】体外受精には、C57BL/6マウスの雌あるいは雄から採取した卵子または精子を使用した。雌マウスから採取した卵子は、各濃度のDTNB (0, 0.5, 1.0 mM )を含有したHTFに導入した。0.75 mM メチル-β-シクロデキストリンを含有したTYHにて前培養した精子を体外受精培地に導入し、体外受精をおこなった。また、一部の卵子は、DTNB処理による透明帯中チオール基量の変化を評価するために、膜非透過性のチオール基選択的蛍光色素であるAlexa Fluor 488 C5-maleimide(AFM)染色を行った。
【結果および考察】DTNBは、濃度依存的に体外受精における受精率を低下させた (control: 84.8% vs. DTNB: 47.4%)。さらに、卵子の透明帯中チオール基量は、DTNB処理により顕著に減少した。以上の結果より、DTNBは透明帯の酸化を促進し、透明帯の酸化は、卵子の受精能低下の要因となることが示された。本知見は、マウス体外受精において、透明帯の酸化を防ぐことにより、受精率低下を回避できることを示唆するものである。