アクティブボード・2011年11月
     ・・・・・2011年11月 3日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第21回日本臨床精神神経薬理学会 第41回日本神経精神薬理学会 合同年会
 2011年10月27日〜29日(東京)

タイトル;カルバマゼピン単剤治療における核内受容体遺伝子多型の影響

発表者;吉田 志保 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 薬物治療学分野)
Abstract;
【目的】カルバマゼピン(CBZ)は有効血中濃度域が狭く、慎重な投与設計が必要である。CBZは核内受容体のリガンドとなり、cytochrome P450 (CYP) 3A等の代謝酵素を誘導するため、その誘導の程度はCBZの体内動態の個人差を規定する要因となる。本研究では、核内受容体pregnane X receptor (PXR)及びhepatocyte nuclear factor 4α(HNF4α)に着目し、その遺伝子多型がCBZ単剤治療に及ぼす影響を検討した。
【方法】本研究に同意が得られたCBZ単剤治療歴のあるてんかん患者104名(年齢12.3±7.2歳)を対象として、CYP3A5*3、PXR*1B、HNF4αA>G (rs2071197)を判定した。臨床情報に基づき、CBZ単剤治療期間(5.5±4.8年)の血中CBZ濃度、血中濃度/投与量(C/D)比、発作抑制率、維持投与量、用量漸増期間に及ぼす遺伝子多型の影響を解析した。血中CBZ濃度及びC/D比は定常状態(投与開始後4週以降)の値を用いた。発作抑制率はCBZ投与前に対する投与後1年までの発作頻度を比較した。また、維持投与量は1年以上発作が完全に消失した際のCBZ投与量とし、CBZ投与開始から維持投与量に達するまでの期間を用量漸増期間とした。
【結果】血中CBZ濃度への遺伝子型の影響は見られなかったが、C/D比の平均値はHNF4αG/G型のPXR*1B保有群ではPXR*1B非保有群に比べて1.6倍高かった(0.89 vs. 0.56 μg/mL/mg/kg、P=0.038)。一方、50%以上の発作抑制率及び維持投与量に各遺伝子型は影響しなかったが、HNF4αG/G型のPXR*1B保有群では、PXR*1B非保有群に比べて用量漸増期間の中央値が有意に短かった(2.3ヶ月vs. 24.8ヶ月、P=0.004)。
【考察】本研究では、PXRおよびHNF4α遺伝子型の組み合わせがCBZ投与量の漸増期間を決定する因子となりうることを初めて明らかにした。本研究結果より、HNF4αG/G型のPXR*1B保有者ではPXR*1B非保有者に比べてCBZの自己誘導の程度が小さく、その維持投与量に達するまでの期間が短くなることが示唆された。