アクティブボード・2011年 7月
・・・・・2011年 7月 5日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第58回日本実験動物学会
2011年 5月25日〜27日(東京)
タイトル;還元型グルタチオンによる受精促進作用と卵子透明帯の膨化を伴うチオール基の増加.
発表者;堤 晶 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野)
Abstract;
【目的】我々は、マウス凍結/融解精子を用いた体外受精において、還元型グルタチオン (GSH) 処理により、受精率が顕著に上昇することを明らかにした。GSHとは、生体由来の抗酸化化合物であり、グルタミン酸とシステインとグリシンを含むトリペプチドである。これまでにGSHは、精子において活性酸素種による細胞障害を軽減し、精子の機能低下を抑制する働きがあることが知られている。しかしながら、GSHによる受精率の上昇が、何に起因するのかは明らかになっていない。そこで本研究では、GSHによる受精能促進作用に関するメカニズムの解明を目指して、受精の障壁となる卵子の透明帯に対するGSHの影響について検討を行った。
【方法】C57BL/6雌マウスから卵子を採取し、各濃度のGSH (0, 0.25, 0.5, 0.75, 1.0, 1.25, 1.5 and 2.0 mM) を含有するHTFに導入した。体外受精に使用した精子は、C57BL/6マウスの凍結/融解精子を使用し、精子を前培養した後に、体外受精培地へ導入した。なお、精子の凍結保存液あるいは、精子前培養液には、18%ラフィノース・五水和物/3%スキムミルク+100 mM L-グルタミン溶液あるいは、0.75 mM MBCD を含有したTYHを使用した。卵子の観察は、媒精から8時間後に行った。特に、透明帯の形態的な変化に着目し、実験区毎に透明帯内の面積を測定した。また、GSH処理による透明帯構成タンパク質の酸化-還元状態の変化を調べるために、卵子のチオール基を蛍光染色 (Alexa Fluor 488 C5-maleimide) し、蛍光強度によりチオール基の量を評価した。
【結果・考察】GSHを処理した卵細胞質は、いずれも形態学的には正常であった。また、体外受精における受精率は、0.5 mM から1.0 mMまで上昇し、1.0 mMから2.0 mMはプラトーであった。一方、透明帯は、GSHの濃度の増加に伴い、緩やかな膨化が認められた。各実験区における透明帯内の面積を比較すると、0.75 mMでは、GSHを処理していない卵子 (0 mM) に比べて、14%の増加が認められた。さらに、1.5および2.0 mM では、0 mMに比べて64%および78%の増加が認められた。また、蛍光染色の結果から、GSHを卵子に処理することにより、濃度依存的に透明帯中のチオール基の量を増加させた。すなわち、GSHの還元作用により、透明帯のジスルフィド結合を切断し、チオールに変換していることが明らかになった。以上、本研究に得られた知見により、GSH処理による透明帯中チオール量の増加が、透明帯の膨化および受精率の上昇の一因として、関与していることが示唆された。