アクティブボード・2011年 3月
・・・・・2011年 3月 1日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第33回日本分子生物学会年会
2010年12月7日〜10日(神戸)
タイトル;全長HCVのB細胞発現によるリンパ腫誘導.
発表者; 笠間 由里 氏
(熊本大学 大学院生命科学研究部 感染症阻止学寄附講座)
Abstract;
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は肝臓の他それ以外にも自己免疫疾患の発生や悪性リンパ腫、扁平苔癬などの疾病を引き起こす。我々は、これら肝外病変のうちBリンパ腫に着目し発症機序解明を目的としてモデルマウスを樹立してきた。我々は先に、HCVの構造蛋白質遺伝子を持続発現するマウス(CN2 IRF-1-/-)を樹立した。本マウスでは、生後任意の時期にcre発現アデノウイルスでHCV構造蛋白質を発現誘導後、600日以上に渡ってHCVが持続発現し、リンパ性増殖を高頻度に発症した (Gastroenterology 2009)。しかしながら、HCVがBリンパ球に及ぼす直接作用は依然として不明であった。そこで、HCVの全長遺伝子をB細胞で発現するマウスを樹立して解析した。HCV全長遺伝子をCre/loxPシステムで発現制御可能なマウス(Rzマウス)とB細胞マーカーであるCD19遺伝子座にCre遺伝子をノックインしたCD19Creマウスを交配し、RzCD19Creマウスを樹立した。HCV遺伝子のB細胞特異的な発現を確認後、600日以上に渡って経時的に観察し、体重変化やサイトカイン等の変化の解析、並びに最終的には剖検を行いBリンパ腫の発生を病理学的に解析した。その結果RzCD19Creマウスの25%(♂;22.2%、♀:29.6%)でBリンパ腫の発生が観察された。一方、HCVを発現していないマウス群でのBリンパ腫の発生は、Rzマウス(HCV遺伝子のみ持つマウス)で2.9%,CD19Creマウス(CD19Cre遺伝子座にCre酵素がノックインしたマウス)で9.1%、WTマウスで8.3%であった。また解析した液性因子の中では、soluble interleukin-2 receptor & alpha subunit (sIL-2R&alpha)がRzCD19CreマウスでBリンパ腫を発生した個体の血中で非発生群に比べ有意に高いという事も明らかとなった。以上の結果から、HCVがBリンパ腫発生に直接関与する可能性が強く示唆された。