アクティブボード・2010年12月
     ・・・・・2010年12月 6日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第51回日本糖尿病学会総会 
 2008年5月22日〜24日(東京)
・第20回分子糖尿病学シンポジウム
 2008年12月13日(東京)

タイトル;血管内皮細胞へのMnSOD過剰発現による糖尿病網膜症の発症抑制効果の検討.
 
発表者; 西川 武志 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 糖尿病分子病態解析学分野)

Abstract;
 【目的】糖尿病の合併症の分子機構の解明は、その発症や進展の阻止を図る上で、臨床面からみても最重要課題の一つである。これまで我々は糖尿病合併症発症におけるミトコンドリア由来活性酸素(mtROS)の関与を細胞培養実験の系で報告してきた。今回、MnSODを血管内皮特異的に発現させたトランスジェニック(Tg)マウスを新規に作成し、MnSODによるmtROS除去の糖尿病網膜症発症抑制効果をin vivoで検討した。
【方法】1) 血管内皮細胞特異的に発現するTie2プロモーター支配下にヒトMnSOD遺伝子を挿入した遺伝子発現ベクターを作製し、血管内皮特異的にMnSODを発現するTgマウスを作製した。2) MnSODのmRNAおよび蛋白発現をリアルタイムRT-PCR法または蛍光免疫組織染色法で評価した。3) ストレプトゾトシン(STZ)の腹腔内投与により糖尿病を惹起し、4週間後に、尿中8-OHdGをELISA法で、網膜におけるVEGFのmRNA、蛋白発現をリアルタイムRT-PCR法または蛍光免疫組織染色法で評価した。4) マウスに相対的低酸素状態を導入し、網膜症の発症を蛍光色素を用いた無血管領域測定および微小血管瘤定量で評価した。
【結果】1) コントロールマウスに比しTgマウスでは、網膜組織におけるMnSOD mRNA発現および大動脈血管内皮でのMnSOD蛋白発現の著明な増加が認められた。2) non-TgコントロールマウスではSTZ非投与マウスに比し、STZ投与4週後に、尿中8-OHdGは2.3倍に増加し、網膜でのVEGF mRNAは2.5倍に増加し、VEGF蛋白発現も増加したが、TgマウスではSTZ投与後においても、すべて抑制された。3) 相対的低酸素負荷によりコントロールマウスの網膜では著明な無血管領域及び多数の微小血管瘤が観察されたが、Tgマウスでは無血管領域は抑制され、微小血管瘤は73%の減少が認められた。
【結論】今回、血管内皮特異的MnSOD発現Tgマウスを作成できた。更にこのマウスを使用したSTZ投与、相対的低酸素負荷の2種類の糖尿病網膜症発症モデルにおける検討で、mtROSの抑制により糖尿病性網膜症に伴うVEGFの変化と無血管領域、微小血管瘤の発症の抑制が確認され、糖尿病網膜症発症におけるmtROSの関与が証明された。