アクティブボード・2010年11月
・・・・・2010年11月 4日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第24回モロシヌス研究会
2010年 9月17日〜18日(阿蘇)
タイトル;MSM/Ms系統由来ES細胞を用いた遺伝子トラップクローンの解析.
発表者; 中原 舞 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 表現型クリニック分野)
Abstract;
遺伝子トラップ法とは、ES細胞においてランダムに遺伝子を破壊する方法で、具体的にはマーカー遺伝子であるβ-geoをもつトラップベクターをES細胞内に導入する。β-geoはプロモーターを持たないため、ES細胞で発現している遺伝子内に挿入された時のみG418耐性となる。これらのトラップクローンのDNAやRNAの解析を行うことで、トラップした遺伝子の同定が可能である。また、キメラマウスを作ることによって、トラップマウスラインの樹立、表現型解析・遺伝子の発現解析も可能となる。
当研究室では、TT2由来のES細胞;KTPU8での遺伝子トラップ解析データが蓄積している。さらに現在、MSM/Ms系統由来のES細胞;Mol/MSM-1を用いた遺伝子トラップも行っている。MSM/Msは、日本で捕獲・近交系化された野生マウスであり、汎用されるC57BL/6等の実験用マウスとは別の亜種;Mus musculus molossinusに属す。そのゲノム配列・表現型ともにC57BL/6とは大きく異なることからこのマウスを用いた新たな研究が期待されるが、今まで胚操作が困難でかつES細胞もないことから遺伝子操作はできなかった。我々は、このMSM/Ms系統からES細胞(Mol/MSM-1)の樹立に成功し、これにより遺伝子操作が可能となった。しかしながら、Mol/MSM-1は樹立されたばかりのES細胞株であり、TT2由来のES細胞と同様に遺伝子トラップや遺伝子ターゲッティングが行えるかどうかは不明である。そこで、Mol/MSM-1を用いて遺伝子トラップを行い、KTPU8での解析結果と比較することによって、Mol/MSM-1における遺伝子トラップ法の有効性を検証した。
ベクターには、SA-βgeoを基本としたプロモータートラップベクターを利用している。現在までにMol/MSM-1トラップクローンは142クローン単離し、Southern BlottingおよびPCRにて大きな欠失もなくgenome内に1コピー挿入されたクローンが96クローン得られた。これらについて、KTPU8での遺伝子トラップと同様、5’RACE法によりトラップした遺伝子の解析を行った。5’RACE法で結果が得られなかったクローンについては、現在genomic DNAでの解析も行っているが、今までのところ、Mol/MSM-1では5’RACE解析成功率が低く、rRNA geneへの挿入クローンが多いのではないかという結果が得られている。また、Protein coding geneへの挿入クローンについて、トラップベクターはKTPU8と同様、ATGを含むexon周辺のintronに濃縮して挿入されていた。プロモータートラップとして働くよう設計されたトラップベクターは、Mol/MSM-1においても効率よく遺伝子を破壊できるといえるだろう。