アクティブボード・2010年10月
・・・・・2010年10月 6日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第24回モロシヌス研究会
2010年 9月17日〜18日(阿蘇)
タイトル;Serine protease inhibitor Kazal type 3の発現解析.
発表者; 大村谷 昌樹 氏
(熊本大学 大学院先導機構、生命資源研究・支援センター 表現型クリニック分野)
Abstract;
はじめに:Serine protease inhibitor Kazal type 1 (SPINK1、マウスホモログはSpink3) は、膵臓の外分泌機能を担う膵腺房細胞で産生され、膵液中に分泌されるトリプシンインヒビターで、別名膵分泌性トリプシンインヒビター (pancreatic secretory trypsin inhibitor; PSTI) と呼ばれている。SPINK1は膵臓以外にも消化管や腎臓などの正常組織に加え、消化器や婦人科領域の悪性腫瘍においても発現していることが報告されているが、その役割については明らかではない。
興味深いのは、SPINK1は上皮増殖因子epidermal growth factor (EGF) と構造的に類似しており、我々はSPINK1がEGF receptorの細胞外領域に結合し、その下流の細胞内シグナル伝達経路を活性化することを報告している。この結果は、SPINK1がトリプシンインヒビターとしての役割以外に、細胞の分化や増殖に関与している可能性を示唆している。
目的:これまでにSPINK1/Spink3の成体における詳細な発現解析がなされていなかったため、2種類のSpink3 knockinマウスを用いて、成獣マウスにおけるSpink3の発現パターンを明らかにする。
方法:Cre-loxシステムを用いて、cre recombinase遺伝子とlacZ遺伝子をSpink3プロモーター直下に置換して、Spink3-creおよびSpink3-lacZマウスを樹立した。Spink3-creマウスとRosa26レポーターマウスを交配して樹立したSpink3-cre-R26RマウスとSpink3-lacZマウスの8週齢における全身のβ-galactosidase (β -gal) 活性を、X-gal 染色で解析した。
結果:膵臓では腺房細胞のほぼすべてでβ -gal活性が見られるが、内分泌細胞や膵管細胞では見られなかった。Spink3-lacZマウスでは胃から直腸にかけての消化管や肝臓では発現が見られなかったが、Spink3-Cre-R26R マウスでは広範に、点状に β -gal 活性が観察された。特に消化管上皮では部分的に腺(陰窩)の底辺部から絨毛の頂上にかけて、連続的にβ -gal活性が見られ、消化管上皮幹細胞の一部がSpink3を発現している可能性が示された。また消化器系臓器以外にも、肺気管支上皮、腎臓、精嚢など、トリプシンとは無縁に見える組織においても、その発現が確認された。
まとめ:膵臓では腺房細胞に特異的に発現が観察されるため、Spink3-creマウスは今後conditional knockoutマウスの樹立に有用なマウスとなり得る。またその他の発現臓器における役割の解析はSpink3の過剰発現マウス、またはconditional knockoutマウスを用いた解析が必要である。