アクティブボード・2009年 4月
     ・・・・・2009年 4月 5日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第51回 日本糖尿病学会年次学術集会 シンポジウム.
 2008年 5月22日~24日(東京)

タイトル;分子シャペロンHsp72の物理的および薬理学的誘導による内臓脂肪減少・糖代謝改善効果.
 
発表者; 近藤 龍也 氏
   (熊本大学 大学院医学薬学研究部 代謝内科学分野)
Abstract;
 温熱刺激等により誘導される分子シャペロンHsp (Heat shock protein) 72は蛋白構造の正常な形成・維持・修飾および細胞生存に重要である。Hsp72は糖尿病で発現低下すること、高血糖や酸化ストレス、小胞体ストレスなどにより誘導されるJNK (c-jun N-terminal kinase)やASK1 (Apoptosis signal-regulating kinase 1)などの活性化を抑制することが報告されている。
 我々は、Hsp72を物理的にあるいは薬理学的に誘導することにより、ストレスシグナル系の抑制を介して糖代謝が改善されるという仮説のもと研究を進めてきた。
 第一の方法は温熱と電流を同時に与える物理的治療法(Mild Electric current and Thermo: MET)である。42℃の温熱と微弱電流を糖尿病モデル動物に10週間施行したところ、体重・摂食量に差はないが、
1)空腹時血糖値・インスリン値低下
2)糖負荷試験・インスリン負荷試験において耐糖能・インスリン感受性改善
3)血清アディポネクチン値増加
4) 内臓脂肪・皮下脂肪量減少・脂肪肝改善
5) インスリンシグナル改善・JNK活性化抑制
6)反応性インスリン分泌改善
などの効果を認めた。
 第二の方法はGGA(Geranylgeranylactone)による薬理学的Hsp72誘導療法である。GGAは安全性の高い抗潰瘍薬として日本で開発され臨床的にも頻用されている。高脂肪食負荷マウスに200 mg/kg/dayのGGAを4週間毎日経口投与したところ、
1) 体重増加抑制
2) 空腹時および随時血糖値低下・空腹時インスリン値低下
3) 耐糖能・インスリン感受性改善
4) 血清アディポネクチン値増加・レプチン値低下
5) 内臓脂肪・皮下脂肪量減少・脂肪肝改善
6) インスリンシグナル改善・JNK活性化抑制
などMET治療に類似した結果を示した。すなわちHsp72誘導が物理的であれ、薬理学的であれ糖代謝改善・脂肪減少に有効である可能性が示された。
 更に、ヒトへの臨床応用前にMETの安全性確認試験を健常人10名を対象に行なったところ、
1)内臓・皮下脂肪量は有意ではないが約4%減少し、MET中断8週後には前値に復した。
2)耐糖能・インスリン感受性・インスリン分泌能は不変。
3)血清学的異常・有害事象なく、十分な安全性・忍容性を確認した。
4)高感度CRPおよびTNF-α値の有意な低下を認めた。
従って、MET治療は糖代謝改善・動脈硬化抑制および脂肪減少効果があると期待され、臨床応用へ向けて準備を進めている。