アクティブボード・2008年 3月
・・・・・2008年 3月 3日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第24回日本疾患モデル学会
2007年8月31日〜9月1日(つくば)
タイトル;新規顔面形成疾患モデル、Naxマウス.
発表者; 川上 穣 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 臓器形成分野)
Abstract;
脊椎動物の頭顔面は非常に複雑な組織であり、その形成過程においては多数のシグナル伝達経路が時間的・空間的に精密に組み合わさっている。現在までに様々な遺伝子の変異により、顔面形成異常が起こることが報告されている。しかし顔面形成に直接関わる遺伝子自体に変異がなくても、様々な外的要因でその機能が阻害され、顔面形成に異常を生じることがある。例えば妊婦において、過剰なアルコール摂取やシクロパミンを含む植物の摂取が胎児に顔面形成異常を引き起こすという報告などが例として挙げられる。
Naxマウスは、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)のモデルマウスとして樹立された9つのマウスラインの1つであるが、常染色体優性遺伝の鼻骨・前上顎骨低形成を特徴とする表現型を示したため、Nax : Naso-maxillary deformityと名付けられた (Dev. Genet. 8, 195-205, 1987)。Naxマウスの表現型解析の結果、移動後の神経堤細胞に細胞死が観察された。神経堤細胞の細胞死は、いくつかの顔面形成疾患に共通してみられる特徴であり、シグナル伝達系の異常によって引き起こされると考えられる。マーカー解析の結果、顔面形成に関わる複数の分子マーカーの発現に異常がみられた。FAPの原因遺伝子であるトランスサイレチンの異所的発現が顔面形成過程に関わるシグナル伝達系の機能を阻害したことが原因と考えられる。
以上の点から、Naxマウスは、その遺伝子型自体は正常でありながら、外的要因により特定なシグナル伝達系が阻害された結果として惹起される顔面形成異常疾患の良いモデル系となると考えられる。顔面形成過程のシグナル伝達には未解明の点が多く含まれており、その解明に関してNaxマウスは有用であると考え、解析を行っている。