アクティブボード・2007年11月
・・・・・2007年11月 2日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第55回日本ウイルス学会学術集会、2007年10月21~23日(札幌)
タイトル;HIV-1 Nefの宿主細胞内チロシンキナーゼに対する影響.
発表者; 日吉 真照 氏
(熊本大学 エイズ学研究センター 予防開発分野)
Abstract;
HIV-1 NefはマクロファージにおいてSrcファミリーチロシンキナーゼであるHckと高親和性に会合しHckを強く活性化する。HIV-1 Tgマウス及びHck KOマウス等の解析から、Nef-Hck会合はエイズ発症の助長因子であることが示されているが、その詳細なメカニズムは不明である。そこで、Nef-Hck会合のサイトカインシグナルに対する影響を検討した。我々は既に、Nefがマクロファージ特異的サイトカインであるM-CSFの活性を抑制することを報告しているが(Blood, 2005)、今回この作用がNefの病原性とどのように関連するのかを更に明らかにするために、Nefによる M-CSF活性抑制の分子機構を解析した。
Hckを内在的に発現し複数のサイトカインに依存して増殖する細胞株(TF-1及びTF-1-fms)にNefを導入し、サイトカイン応答性を解析した。その結果、NefはIL-4活性を有為に抑制し、GM-CSF活性は増強することが明らかとなった。しかし、検討したサイトカイン中でNefが最も顕著に作用したのはM-CSFの活性抑制に対してであった。この結果と一致して、Nefは細胞表面上のGM-CSF受容体の発現量には影響せず、M-CSF受容体(M-CSFR)の発現低下を誘導することが判明した。NefによるM-CSFRの発現低下は293細胞を用いた一過性発現実験においても確認できたが、これにはHckの共発現が必須であった。興味深いことに、M-CSFRの細胞表面量の低下に伴って、N型糖鎖修飾が不完全なM-CSFR前駆体がゴルジ体に蓄積していることが明らかになった。M-CSFRの変異体を用いた解析により、M-CSFR前駆体の蓄積にはM-CSFR分子の細胞内領域は関与せず、成熟過程において糖鎖の修飾を受ける細胞外領域が重要であることが示唆された。更に、Nefの変異体を用いた解析により、ゴルジ体においてNefとHckが会合しHckが活性化され、M-CSFR前駆体が蓄積されることが明らかになった。
これらのことから、NefによるM-CSF活性抑制は、ゴルジ体に存在するNefによって活性化Hckがゴルジ体に局在するようになり、その結果M-CSFRの成熟が阻害され細胞表面のM-CSFRの発現量が低下するために起こることが明らかとなった。