アクティブボード・2007年 5月
・・・・・2007年 4月29日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・日本分子生物学会2006フォーラム『分子生物学の未来』、
2006年12月6~8日(名古屋)
タイトル;ニワトリ胚を用いた、初期内胚葉での膵臓領域化決定機構の解析.
発表者; 勝本 恵一 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 幹細胞制御分野)
Abstract;
本研究は、内胚葉系器官形成メカニズムに焦点を絞り、内胚葉由来の臓器の中でも膵臓形成に着目した。DiI溶液を用いた細胞追跡実験より、ニワトリ胚10体節期で背側膵臓は、4-7体節領域内胚葉に存在する(Matsushita 1996)。現在明らかになっている最も早い膵臓マーカー遺伝子Pdx1(pancreas duodenum homeobox1)が、10体節期予定膵臓領域で発現していることを、Whole mount in situ hybridization法を用いて確認した。内胚葉が形成される原腸陥入期から、10体節期までの間では、いつ、どこの場所に膵臓の前駆細胞が出現するのか、どのような経路を経て予定膵臓領域に移動するのか、いつのstageまでに膵臓分化が決定されるのか、そのシグナルは何か等、ほとんど情報はない。そこでまず、膵臓前駆細胞が存在する領域を確定するために、DiI結晶を用いて、膵臓に関する詳細な細胞運命予定地図を作製した。膵臓前駆細胞は、stage5の時期においてヘンゼン結節周辺に存在した。経時的に観察した結果、膵臓前駆細胞は連続的に尾側へ移動していくことも明らかにした。移植実験より、予定膵臓領域は8体節期でPdx1を発現することが決定していることを明らかにした。(勝本ら、国際生化学・分子生物学会議 2006)RT-PCR法を用いた解析より、 Pdx1は4体節期より予定膵臓領域で発現し始めることから(勝本ら 未発表データ)、予定膵臓領域は、4体節期から8体節期にかけて可塑性を失う。現在Pdx1誘導シグナルとして、脊索からのactivin、FGFシグナルが知られている。しかし脊索からのシグナルだけでは、領域化のメカニズムを説明できない。そこで予定膵臓領域を裏打ちする中胚葉からPdx1誘導シグナルが出ているかを調べる目的で、移植実験を行なった。4体節期予定小腸領域を4体節期予定膵臓領域に移植したところ、移植片でPdx1を発現した。同様に8体節期予定膵臓領域に移植しても、移植片でPdx1を発現したことから、4から8体節期予定膵臓領域を裏打ちする中胚葉は、Pdx1誘導能力を持つことを明らかにした。一方、4体節期予定胃領域を4体節期予定膵臓領域に移植したところ、移植片でPdx1を発現しなかった。今までの報告で、異所的な膵臓が形成される時は、より前方でできやすい、との報告が多い。予定胃内胚葉を裏打ちする中胚葉にはPdx1誘導能力があるのではないかと考え、自律的にPdx1を発現できない6体節期予定膵臓領域を6体節期予定胃領域に移植したところ、移植片でPdx1が発現した。これらの結果より、初期内胚葉での膵臓領域化には、Pdx1誘導シグナルを受ける内胚葉側の可塑性が、重要な役割を担っていることを明らかにした。