アクティブボード・2007年 5月
     ・・・・・2007年 4月29日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・熊本大学韓国フォーラム2006、2006年 9月26~27日(韓国・大田)

タイトル;Fundamental Study for Overcoming Chronic Hepatitis C, Cirrhosis and Hepatocellular Carcinoma.
発表者; 齊藤 誠 氏
   (熊本大学 医学薬学研究部 先端生命医療科学部門 感染症阻止学寄附講座)
Abstract;
 全世界で1億7千万人、日本では約200万人の感染者がいると推定されるC型肝炎ウイルス(HCV)は、慢性肝炎の主要因のひとつとして知られている。我が国においては、肝癌患者の約80%が HCV抗体陽性すなわちHCVの持続感染が確認されており、HCVは肝癌の主要なリスクファクターでもあるといえる。HCVは、宿主細胞のゲノムに組み込まれる事なく主に細胞質で複製するプラス一本鎖RNAウイルスであり、多くの場合持続感染が成立し慢性肝疾患(慢性C型肝炎)を引き起こすことが知られ、さらに高率で 肝硬変・肝癌へと進展する。こうしたことから、HCV感染症・関連疾患の有効な治療法やワクチン開発が望まれている。しかし現状では、これまで研究面でのさまざまな制約(有用なHCV感染系が樹立されていない等)からHCV研究は他のウイルスに比べあまり進んでおらず、感染・複製の機序についても未だ不明の点も多い。特に、癌遺伝子を持たずゲノムDNAに組み込まれないHCVが、高率に肝癌を引き起こす機序については多くのエビデンスがありながらも未だ解明に至っていない。それゆえHCV関連肝癌については、HCV感染初期におけるIFN (+ ribavirin)療法以外の有効な治療法は未だ確立されていないのが現状である。当講座では、このHCVによる肝発癌の分子機序の解明に取り組んでいる。
 上述のとおり、HCVは細胞や動物への効率の良い感染系がこれまでほとんど報告されていない。一昨年にHCVの高効率なin vitro感染系が初めて報告された(Wakita et al., Nat. Med. 11:791-6. 2005)が、感染できる細胞が一部の肝癌細胞に限定されており、腫瘍原性(つまり正常肝細胞が癌化するステップ)の解析といった面では未だに困難な状態である。こうした研究上の問題を克服するべく、我々のグループではチンパンジーに感染性のある患者血清から得たHCV全長cDNAクローン(遺伝子型1b:日本人感染者に多い)をCre/loxPシステムでスイッチング発現できる細胞系を樹立している。この細胞においては、HCVスイッチング発現により経時的にcdk-Rb-E2F経路を活性化して増殖形質が変化することを確認しており、HCV持続感染(発現)下における細胞形質の修飾、特にHCVによる細胞癌化機序がin vitroで再現されることが期待される。こうした知見より、この細胞はHCVの持続発現による腫瘍原性亢進のモデルとして有用であると考えている。現在我々は、このHCVによる腫瘍原性亢進がみられる細胞で特異的に発現が変動している分子の解析を通じて、腫瘍原性に関わる分子(腫瘍関連抗原)の探索を試みている。現時点で、HCV関連肝癌患者の癌部での発現が亢進している分子を数種同定しており、さらにそれらの分子の癌化機序における機能などの解析を進めている。以上の解析を通して、HCV肝発癌機序の解明をめざすとともにHCVライフサイクル(感染・複製)の制御機構の解明やさらにはそこで得られる知見をHCV感染症・関連疾患の新たな治療法開発へ応用することも検討している。また、ウイルスベクターと動物実験系を用いた新型HCVワクチンの開発も行っていく。